大田の口説き


【日蓮尊者口説】

ここは孟蘭盆経よ 心定めてこれを聞き給え

国を申さば中天竺の マガダ国なるその霊地にて

釈迦のみ前そのおん弟子に まう第一が日蓮尊者

なんで初なんそのあくり巾は 須彌の山をば七重に巻いて

雲を吹き立て暗闇となし 虎を吹き出し煙吹いて

人を悩まし病をおこす そこで日蓮大竜となりて

彼が上らば一四重舞いて 白き雲をば吹き出し人をば助け

それで悪竜は恐れをなすよ さてはその時日蓮尊者

又は八万四千の虫に 身をば変化してその悪竜の

鱗々のその下に入る 皮肉せしむるくいやき給う

竜の苦しみ限りをなして 遂に日蓮降服なさる

それに悪逆おばん弟子の 五百人なるその人々を

布の袋を皆出し入れて 肘に引掛け仏前送り

じんずむべんの御身あれど 自業自得は逃れはないぞ

母御浄土の人とは言うは 邪けんけれども罪科深い

遂に餓鬼道にただいをなさる ききぬさかつの苦しみ送る

これを日蓮よく見給えば 肉もなければ骨皮ばかり

首は僅かに糸筋の如く 口は僅かに針孔ばかり

お身火煙を燃えさせ給う 煙口より渦巻き出るに

顔もすぼけて哀れな姿 涙流すにそりゃ雨の如し

飢者は尊者に向かって曰く 飢渇おかつの苦しみ受くる

これをつぶさに語るぞ尽きず それで日蓮涙にくれる

珍味整え膳部を供え 母御お膳を差上げなさる

母御お膳にお着きになれば 大地響きて陥り給う

地より掘り出し膳をばあげる 全部残らずわたしとなりて

国か遥かに空燃え登る それで日蓮涙にくれて

木の実拾って母御にあげる それを母御がおあがりなせば

木の実忽ち剣となりて 御身せんぶにそりゃきい見たく

水をむすびて手向けて見れば 水は火となり膚を焦がす

天にゃ焦がれ大地にゃまろぶ 歎き悲しみ涙にむせて

わしはにらびの親族一の 手なでありつつ母上様の

お難助くるそのことえず 親御女の悲しみ深く

そこで仏にお訊ねなさる 仏答えて経文なさる

自業自得の遁れはないが 汝自力で叶いはせぬぞ

いつけ終りの七月半 孟蘭盆会はありゃ有難や

無間地獄に沈みし者も 暫し苦間は遁るる時節

そこで遍く供養をなさる 母のけんどく罪科深く

教え給えば日蓮尊者 珍味整え膳部をつくり

数多のお僧供養をなさる よくも信心さて有難や

西方極楽花降る地にて 池の中には蓮花が開く

花の中から光を放つ 孔雀鳳凰初音を出だす

風の音さえあら有難や 千夜ひちりき音楽囃子

さては空殿黄金瑠璃や じゃ香赤珠珊瑚や琥珀

しゃほうしゃごんはあら有難や 五百空殿早や鳴り渡る

数も限りもその荘厳も 瑠璃は地に敷きいさごをなして

善の柱に光を出だず 瑠璃の打張り白金壁よ

瑠璃の地にゃ光を出だす 光花あて連花にあがる

百身御会きゃ心の誠 それで日蓮数多のお弟子

勇み喜び躍らせ給う 盆のいわれはここから始め

すべてお経は仏の教え 遂に唐土又その後は

日本国にも渡らせ給う 人皇二十九欽明天皇

天治十三午年なるに お経初めて渡らせ給う

それが中でも孟蘭盆会は 盆のいたりて只今までも

盆の供養はますます繁昌