大田の口説き


【左ヱ門】

1   お前百まで私しゃ九十九まで 共に白がのはゆるまで

2   入れておくれよかゆくてならぬ 私一人がかやの外

3   鮎は瀬に住む 鳥りゃ木にとまる 人は情の下に住む

4   咲いた桜にゃなぜ駒つなぐ 駒がいさめば花が散る

5   跡の付く程つねっておくれ それをのろけの程にする

6   お月様さえ泥田の水に おちて行く世の浮きしずみ

7   腹たちまぎれに破いた手紙 後でつぎつぎ よんで泣く

8   口でけなして心でほめて ひとめしのんでみる写真

9   胸に結んだ羽織のひもは 主の顔みにゃとけはせぬ

10 名残り惜しさを口には出せず じっとくわえた帯の端

11 お前に見しょうとて 結うたる髪を 夜にみだすも又お前

12 青葉、若葉の毛虫でさえも お手の出しよでさしもする

13 風が邪魔してつがいの蝶も しばし菜の葉の裏に住む

14 ほれていりゃこそ いいだしにくい さきの手出しをまつつらさ

15 かたいようでも油断はならぬ とけてながれる雪だるま

16 親の意見となすびの花は 千に一つのあだがない

17 恋し恋しと書いては丸め 外に書く字のないなやみ

18 あんまり左ヱ門な 長くちゃ いかぬ 今のはやりの六調子と行こか

19 秋がきたのか私しゃ気もみじ しかとききたい主の胸

20 腰がまがろが ふらふらしよが さわりゃピンと立つ笹の雪