昭和30年代日本の高度成長の波にのって、大阪や東京に集団就職して行った子どもたちが、最初にぶつかった難問は言葉の壁でありました。田舎で方言の暮らしの中で成長してきた子どもたちには、初めて聞く大阪弁や東京での標準語の会話に目を白黒し、口をあんぐりの毎日だったことでしょう。言葉のノイローゼになりながらも必死になって子どもたちは標準語の社会に溶け込んでいきました。
昭和50年代、国は地方の時代を提唱し、農村の文化に光を当てました。長い間、日陰の中を歩いてきた方言でしたが、方言のぬくもりは人々の会話の中に生き続け、その暮らしをあたたかく見つめ支え続けています。
この地域のぬくもりのある会話を大田へ移住してきた人たちが理解できるよう、主だった方言をご紹介します。
※赤字は会話の中で特によく使われる方言
【あ】
あくたれ → 悪口
あげこげ(あげちこげち、あげんこげん) → いろいろ、あーでもこーでも、うろうろ
あけなんこ → 本当の
あっちあられん → 考えられない
あぼ → もち
あおむく → 上を向く
あげえ → あのように
あくそをうつ → 愛想づかし
あど → かかと
あらかましい → おおざっぱ、あらあらしい
あんしゃー → あの人たち
あんのう → あのねぇ
【い】
いいちこ → 良いでしょう
いびしい・うたちい → 汚い
いやたれ(やあたれ) → 青大将(へび)
いらひど(づ) → とてもきつく、激しく、非常に強く
いいぜ → 麦や薪などを束ねる縄
いころ → 元気
いさぶる → 揺り動かす
いちべ → 益々
いっちょく → 行ってきます
いっかやす → 物を一気に出す
いっこむ → 物を一気に入れる
いのえー → 帰ろう
いのちき → 生活
いぢくる → 触る
いびしー → 汚らしい、けがらわしい
いらばかす → 人を騙す
いれくる → 上手にごまかす
いろく → 乾燥する
いんじょけ → 帰ってきなさい
いぬる → 帰る
【う】
うてちょる → 疲れている
うめえ → 美味しい
うっつく → 顔をくっつける、伏せる
うとんぽ → 穴
うべる → 薄める
うたちい → きたない
【え】
えば → 蜘蛛の巣
え(ゆ)ごぅじょる → 曲がっている
【お】
おおごっちゃ(おごっちゃ) → 大変
おこらえ → すみません、ごめんなさい
おちょくる → もてあそぶ、ばかにする
おっとろっしゃ → そうですか、本当ですか
おとはち → 蛾、蝶々
おづ(ど)がる → 恐ろしがる
おろいい → 悪賢い
おおきに → ありがとう
【か】
があたろう → かっぱ
かかじる → 引っ掻く
かちくらす → ぶん殴る(人を脅す時に使う)
かたひる → 半日
かきむくじる → 激しく引っ掻く
【き】
きじょわしい → 気ぜわしい、手早く、落ち着きのない
きたねえ(きさねえ) → 汚い
きみがいい → (他人の失敗を)喜ぶ
きょくる → 馬鹿にする
【く】
くらぁす → 殴る
ぐらぐらする → 腹を立てる
【け】
けえしょもねぇ → つまらない、品のない、小さなこと
けたくそ(けてくそ) → 気分が悪い、体裁、プライド
けとろく → つまらないこと、違うこと
けび → 変わっている
けぇ → 来い
けんたい → わがもの顔で自由にふるまう
【こ】
こぉんげ(こげー) → こんなに
こげんこつ → こんなに
こたえん → たまらない、耐えられない
こて → 体、体格
このよに → こんなに
こばる → 頑張る、精を出す
こいさ → 今夜
こずむ → 積む
こそぐる → くすぐる
ごてしん → なまける
【さ】
さかしい → 元気な
さでぃ → 素早い
【し】
しちくじい → 何回も、繰り返し
じなし → つまらないこと
しゃーしい → うるさい、めんどうくさい
じゃーじゃー → そのとおり
じゃーけん → ですから、だから
しゃっち → わざわざ
じゃろー → そうでしょう
しょうけ → ザル
しょーもねぇ → 小さなこと、つまらないこと
じもねぇ → びっくりするほどの、たくさんの
しらしんけん → 一生懸命
しろしい → いらいらする、気持ちが悪い
(わけー)し → (若い)ひとたち
しおたれる → 塩水にしっとり濡れる
しこる → 植物が繁茂する
したむながる → やりたがらない
じつてー → 実直
しびく → 強く叩く
じっねぇ → つらい
しびる → もらす
しゃがむ → 座る、姿勢を低くする
しよのむ → ねたむ
じるい → じめじめとした
しゃんと → 固く
【す】
ずくたん(ずくてん) → 頭
すっとごと → 嘘
ずつねぇ → 苦しい、辛い
すま → 隅
すもつくれん → つまらないこと、何の役にも立たないこと
すぼ → ごみ、あくた
すわぶる → 吸う
【せ】
せこはげ → 経験豊富な年輩の人に対する悪口
せちい → うっとうしい、おもぐるしい
せく → 痛む
せらう → 焼きもちを焼く
【た】
たいらく → 大口(大きなことを言う「さま)
だっしもねぇ → ものすごく、たくさん
たの → たぬき
たまがる(たまげる) → びっくりする
だまねえ → ものすごく、たくさん
だらしい → 怠い、疲れた様子、ダラダラしている
だる(だった) → 疲れる、くたびれる
だいぃ(だった) → だるい、疲れた
たいがい → そこそこ
たまぐれる → 戸惑う
だっちょる → やる気がない
だまくらかす → 騙す
たりなる → 役に立つ
【ち】
ちくらぁす → 殴る
ちびっと(ちと) → 少し
ちゅうろくてん → 何もないところ
ちょん切る → ちょんと切る
【つ】
つず → 唾液
つっこする → 触れる
づつねえ → つらいつづる
つづる → 虫がかじる
つなで → ついで
つぶし → ひざ
つばくろ → つばめ
【と】
とうへん → 非常識なこと、つまらないこと
とざ → 友だち、仲間
どげかえ → どうですか
どげしたん → どうしたんですか
どげでん → どうにでも
とちけもねえ → とんでもない
とほくる(とほけち) → 知らないふりをする、急に思いがけなく
とんきゅう → あわてもの、おっちょこちょい
どんな → どうしようもない、どじ、とんま
どうもこぅもねぇ → しゃにむに
どげちこげち → どうもこうも
【な】
なおす → しまう、片付ける
なしか(なしかえ) → 何で
なっとした(なっとどした) → どうしましたか(どうした)
なっともならん → どうにもならない、どうにもできない
なばっちょる → 疲れている、グッタリしている
なんかえ → 何ですか
なんち(なんちえ) → 何ですか、どうしてですか、どういうことですか
なんでんかんでん → なんでもかんでも
なんこむ → 放り込む
【ぬ】
ぬじる → 塗りつける
ぬうじょる → 飲んでいる
【ね】
ねき → 側
ねぶる → なめる
【は】
はりこむ → 頑張る、精を出す
はんごがわりい → 体裁が悪い
はかがいく → はかどる
ばたぐるう → ばたばたする
はんごう(が悪い) → きり(が悪い)
【ひ】
びー → 女の子
びきたろ → カエル
ひじい(ひでえ) → 疲れる、大変な
びったれ → 汚い
ひろつく → ひもじがる
ひんのむ → のみこむ
びんびこ(びびんこ) → 肩車
ひしゃぐ → つぶす
【ふ】
ふ(ほ) → カメムシ
ふがわりい → 機嫌が悪い、腹を立てている、怒っている
ぶっそねー → 怖い、恐ろしい、危険
ふてこと → たくさん
ふがいい → 運がいい
ふくましい → 腹がはって苦しい
【へ】
へ戻る → 逆戻り、すぐに帰ってくる
へこ替え → 親友
【ほ】
ほいち(ほりじ) → それから
ほたらぬりい → 生温かい
ほらけた → 転んだ、落ちた
ぼん → 男の子
ほんなこつ → そんなこと、本当のこと
ほじゃーけんど → そうは言っても
ほらけおちる → 落ちる
ほたる → 投げ捨てる
【ま】
まっぽし → まともに
まてぇ → のろい、弱い
まるっと → 全面的に、全部
まちっと → もう少し
【む】
むげねぇ → かわいそうな
【め】
めんどしい → 格好悪い、品が悪い
【も】
もうがんこ → つらら
もぉな → 非常に、たいした
もげな(もげなこと) → 大変な、たくさん
もっこべこ → ふんどし
もってねー → もったいない
もちっと → もう少し
【や】
やぁちもね → びっくりするほどの、大変な
やおねえ → たいへん、つらい
やたら → すごく、何回も
やでねぇ → 忙しい
【よ】
ようけ → たくさん、いっぱい
よだきい → 面倒くさい、煩わしい
よだつ → 計画する、出発する
よろうち → 一緒に
【ろ】
ろくする(ろくおしよ) → ゆっくりする、ゆっくりしてください
ろくでんねえ → ろくなことがない、良いことがない、非常識
【わ】
わかど → お前たち
わしど(わしら) → 私たち
われ → お前
わりぃ → 悪い
※「大田村誌」より引用
※「大田村誌」より引用